挑戦を文化に。 WILLCOが実践するAI時代の人材戦略
東京に拠点を置く人材ベンチャー、WILLCOが急成長を遂げている。士業や医療職など、専門性の高い職種に特化した人材関連サービスを展開し、多くの分野でトップシェアを獲得している。
さらに、「すべての働くをしあわせに」というビジョンの実現に向け、多くの新規事業に挑戦し続けている。今回はその成長戦略や人材戦略について、代表取締役の土屋佳大氏に話を伺った。
失敗から学んだマーケット選択の重要性とナンバーワン戦略
「当社は『リーガルジョブボード』という、弁護士、司法書士、弁理士などの士業や、その周辺の求職者と採用企業・事務所を対象としたサービスが主力です。」
そのように話し始めた土屋が率いるWILLCOは、士業専門の求人プラットフォームであるリーガルジョブボードをリリースからおよそ7年でトップシェアにまで成長させた。しかし、その成功の裏には数え切れないほどの事業が失敗に終わった経験があるという。
「これまで大きい事業で5つ、小さい事業も含めれば30近くの事業を作りましたが、すべて失敗に終わりました。途中までうまくいっていた事業もありましたが、大手の参入、そして大量の資本投下により撤退を余儀なくされました。」
“失敗”と言う言葉とは裏腹に土屋の顔は明るく、後悔している様子はない。
「多くの失敗から学んだ教訓が2つあります。1つはマーケット選択の重要性であり、もう1つはナンバーワンをとることの必要性です。すでに一定のマーケットが存在し、成長しているマーケットは必ず大手やライバルが目をつけます。ですので、ベンチャーとして生きていくためには、まだはっきりとは存在していないマーケットを見つけ、リスクを取ってマーケット自体を作り出す覚悟が必要です。これが1つ目のマーケット選択の重要性です。
そして、マーケット選択がうまくいったとしても、マーケットが拡大すれば他社に目をつけられることになります。そこで、他社がマーケットに気がつく前に、いかに圧倒的なナンバーワンになるかが必要になってきます。圧倒的なシェアは、他社にとって大きな参入障壁になります。
『リーガルジョブボード』では、これらの教訓を存分に活かすことができました。また、少ない資本や少人数で大手と戦ってきた経験も非常に有利に働きました。つまり、営業、マーケティング、システム、デザインなどの人材ビジネスに必要な総合的に高いレベルでのサービス構築力、いわば筋力がついた状態で新しいマーケットで勝負ができたことが、早期にトップシェアをとれた大きな要因だと考えています。」
ニッチなマーケットでスピーディーに圧倒的なシェアを獲得する。その競争優位性を支えているのはWILLCOが重要戦略と位置付ける「テクノロジー競争戦略」だ。士業領域では初となるダイレクトリクルーティングシステムの導入、AI活用など、積極的にテクノロジーの活用を進めている。そして、そのテクノロジー競争戦略も転換期を迎えていると言う。
「人材紹介ビジネスは非常にコモディティ化しやすく、手数料や金額での差別化が難しいという特徴があります。そこで、テクノロジーを差別化要素の1つとして投資してきました。ここで言うテクノロジーは単なるシステム開発力だけでなく、デザインやデジタルマーケティング、AIによる業務効率化など、デジタルに関わるすべてを指しています。結果として、この業界においてテクノロジーの最前線を進めていると自負していますが、これからは、それだけでは足りないと思っています。
どの企業でもテクノロジーの活用はより当たり前になっていきます。その中で、テクノロジーの上に『人としてのぬくもり』をいかに乗せていくか、そこが僕たちのサービスを発展させるための鍵であると考えています。例えば、僕たちが新規事業として取り組んでいるAI関連事業においては、AIエージェントという選択肢も出てくると考えています。近い将来にはAIエージェントが広く普及し、平均的なキャリアはAIエージェントが示してくれるようになると予想しています。しかし、だからこそ人がそこに介在する価値が相対的に高まり、差別化要素としても重要になっていきます。
企業としても、テクノロジーをベースに人としての価値を付加できる人材を育てられるところが勝っていくのだと思います。」
「働くしあわせ」を実現する豊富なキャリアパス
WILLCOはAI関連事業以外にも数多くの新規事業に挑戦している。その理由について、土屋は3つ挙げる。
「まず1つ目は、新規事業に挑戦し続けることがベンチャーの本能だからです。加速的に変化していく世の中で、新たな価値を創造し続け、成長していく生き物がベンチャーです。2つ目は、僕自身が純粋にサービスや新たな価値を創ることに大きなやりがい、もっと言えば生きがいを感じているからです。今後も同じ喜びを持てる仲間に集まってもらいたいと思っています。そして3つ目は、事業の多角化によって、社内のメンバーに新たな挑戦の機会や、将来の選択肢の幅を提供できると考えているからです。」
日々、新しい事業が生まれているWILLCOでは実に豊富なキャリアパスが歩める。例えば、このインタビューに同席しているWILLCOのメンバーもそうだ。営業職として入社した後、マーケティング事業部で経験を積み、さらにはプロダクトマネージャーを経て、現在はブランディング領域のプロジェクトを複数担当している。彼女曰く、「チャンスが会社中に転がっている状態で、それを1つずつ拾ってきた」結果だそうだ。
このようなユニークなキャリアを積むことができるのもWILLCOの特徴の1つだ。なぜ豊富なキャリアパスを歩めるのか。これについて土屋は次のように熱を込めて話し始めた。
「まず、一言でいうと『みんなに幸せになってもらいたいから』という想いがあるからです。当社は『すべての働くをしあわせに』というビジョンを掲げています。しかし、誤解を恐れずに言うと、働く幸せは20代やそこらで手に入るものではないと考えています。社会に出たばかりの頃は皆、自分が何者かもわからぬまま、目の前の仕事を必死にこなすので精一杯なのではないでしょうか。しかしそうした努力を重ねることで、30代40代になってようやく、自分らしさや、自分が大切にするものを理解し、他者や社会への貢献を通じて、じわじわと働く幸せを感じるものだと思いますそのためには、20代から30代前半にかけて、多様な経験を積むことが非常に重要です。
僕自身、今でこそ人材の仕事に人生をかけるほどのやりがいを感じていますが、これまでに、営業、ディレクター、ウェブプロデューサー、エンジニアなど様々な仕事を経験しました。そうした様々な経験があってこそ、自分の得意不得意、好きなことや嫌いなこと、求められる仕事やそうではない仕事、そういった経験の横幅を広げることにつながり、真ん中に軸ができてくるのだと思います。だからこそ、当社では社員に様々な経験をしてもらうことで、30代、40代で得るべき『働くしあわせ』を見つける手助けをしたいと考えています。」
また、WILLCOは横への広がりだけでなく縦方向のキャリアパスも重視しており、年齢や性別に関係なく、必要なタイミングで適切な人材を抜擢する方針を取っている。
「最近では26歳でマネージャーになったり、入社3か月でリーダー職に就いたりする事例が出てきています。僕は、役職に就くためには一定期間の修行が必要といった固定的な仕組みは好きではありません。実力があり、挑戦する情熱を持ち、周囲からも認められる人材であれば、それが最適なタイミングだと考えています。
また、すでに実現しつつありますが、様々な事業が現場からボトムアップで次々と生まれてくるような組織文化や体制を目指しています。特に挑戦をするリスクをリスクと思わない、そういった意味での心理的安全性をベースに組織づくりを進めてきました。その上で、新規事業を立ち上げるためのメソッドを確立し、若手の感性や課題意識を活かせる会社にしたいと思っています。クライアントや求職者のボリュームゾーンは、20代後半から35歳くらいの年齢層ですので、40代になった僕とはこれから少しずつ課題感がずれていくと考えています。だからこそ、若手自身が課題を見つけ、それに対するソリューションを考え実行できるような組織を目指しています。」
テクノロジーと『人としてのぬくもり』
最後に、WILLCOの今後の展望について聞いた。
「テクノロジーに関しては、完全にAIに特化していく戦略です。すでにAIはあらゆる産業に影響を及ぼしています。今はチャットベースのUIが中心ですが、ハードウェアの進化も著しく、街中にAIを搭載したロボットがあふれ、会話ベースで誰もがAIの恩恵を受ける社会がすぐそこまで来ています。そして、特に我々の領域であるHRとAIとは非常に相性が良いと考えています。HRの本質は個人や集団の生産性を高めることだからです。ですから、僕たちのサービスもAIを軸に発展させる方針です。先ほども申し上げた『人としてのぬくもり』を付加価値としてサービスを発展させたいと思っています。
そのためにも、全社員がAIテクノロジーを使いこなすスキルを身につけ、その上でHR分野や各業界のニーズに応じたサービス開発やコンサルティングなど、それぞれの専門性を活かしたキャリアを築いていくことを基本戦略としています。」
WILLCOはテクノロジーをベースとしながらも、人のぬくもりや価値を大切にし、それをサービスの進化につなげていく方針だ。このように、WILLCOは急成長を遂げながらも常に未来を見据えた戦略を立てている。テクノロジーを全面的に活用しつつ、人ならではの価値を融合させたサービス展開を目指す姿勢は、HR業界に新たな風を吹き込み続けるだろう。若い世代の感性とそれを支える組織から、革新的なサービスが次々と誕生することが期待される。
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