日本のイノベーションエコシステムを築く。ソーシング・ブラザーズの挑戦
COVID-19が世界的に蔓延し、世界経済が低迷している中で、令和元年に創業し、平均年齢28歳、従業員の100%が平成生まれという若き人材が結集する会社が東京永田町に存在する。
現状を打破し、失われた30年を取り戻すべく「日本のアップデート」に挑戦するスタートアップ、ソーシング・ブラザーズだ。
今回は、共同創業者であり、代表取締役でもある小澤壮太氏と渡邊祥太郎氏に、ソーシング・ブラザーズがどのように「日本のアップデート」に挑戦しているのか、その戦略や事業について伺った。
イノベーションは「お金」だけでは生まれない
「2年程前に大企業からVC(ベンチャーキャピタル)に投資する、いわゆるLP出資を募る活動を行いました。狙いはVCを通じてスタートアップに流れるお金の量を増やし、イノベーションの促進を図ることです。しかし、500社以上の上場会社を訪問する中で、課題も見えてきました。VCに対するLP出資では、構造上様々な出資者と一緒になるため、大企業が関心のあるイノベーション領域やテーマを理解した上で、スタートアップをリサーチしたり、ソーシングすることが難しいケースが多いと感じました。結果として、望んでいたスタートアップと事業やパートナーシップを組むには至らない。彼らとしては、まずは自社を理解してもらい、自社の事業とシナジーのあるスタートアップと繋げて欲しい。さらには、そのスタートアップのチャレンジングな文化を自社にも取り入れたい。そういった声が非常に多くありました。」
そう話しはじめたのは、大和証券、M&Aキャピタルパートナーズを経て、ソーシング・ブラザーズを共同創業した渡邊だ。祖父の代から続く建設業を営む父を持つ彼は、3代目の跡継ぎとして生まれたが、幼少期から継ぐ気はなかったが、中小企業の後継者問題を身近に感じ、良い会社を後世に残したいという想いからM&Aの世界に足を踏み入れた。事業承継型のM&Aのアドバイザリー業務に従事する中で、事業承継は廃業を防ぐという観点において、社会貢献性は高いが、新たな価値を日本に創出できているのかという疑問を持ち始めた。GAFAMやBATHが誕生し、日本が世界に遅れをとる中で、新たな産業やイノベーションを創出し、日本全体にチャレンジしていく人が増える世界を目指して、ソーシング・ブラザーズを立ち上げた。
渡邊は続ける。
「スタートアップ側も、VCからの出資はもちろん嬉しいですが、欲を言えばお金以外のアセット、例えば大企業が持つ事業基盤や、何十年何百年と培ってきた技術で自分たちのビジネスを一気に加速させるような相手を望んでいます。
大企業とスタートアップはお互いに関わりを求めているにもかかわらず、それを繋ぐプレイヤーが日本には圧倒的に足りていないというのが現状です。それに対する一つの回答が大企業自身がVCの機能を備えるCVC(コーポレート・ベンチャー・キャピタル)です。
また、人の流れも重要であると考えています。我々自身もそうですが、この5年間で数100社のスタートアップと出会いましたが、資金と並んで起業家が課題を感じているのは、ヒトです。
CVCやVCから多くの出資や事業連携が実現できても、それを伸ばしていくには優秀な人材の獲得が必要不可欠です。しかしながら、信用力や知名度の低さからスタートアップが採用に苦戦しているケースは、まだまだ日本では多く見受けられます。
弊社では、前段でお話をしたCVC運営支援により、お金(資金)とモノ(事業)をスタートアップへ流すシステムがあり、更にそのあとの成長に必要なヒト(人材)を流す支援を行うバリューアップ事業部を抱えています。この事業部ではスタートアップや成長産業に特化をして人材採用支援を行っており、シードからレイター、Post IPOに至るまで優秀な人材を企業へ送り込み、成長を支援しています。
ソーシング・ブラザーズのもう一人の創業者である小澤が別の問題点を指摘する。
「もう一つ、起業家自体の流動性が非常に低いことも問題です。この原因を紐解いていくと、スタートアップがM&Aでイグジットするケースが非常に少ないというところに行き着きます。起業家は0から1、もしくは1から10を作るのが得意な一方で、会社の規模が大きくなるにつれて、本来の力を発揮できなくなってしまう方も一定いらっしゃいます。そして、今の日本の資本周りの構造上、スタートアップのイグジットが上場になってしまうことが非常に多い。『上場ゴール』という言葉を聞いたことがあるかもしれませんが、VCなどのファンドがお金の出し手の中心であり、彼らはスタートアップに対して上場することを努力義務として投資しています。その方がファンドは儲かるからです。そして一度上場すると、株価を伸ばす責任が生じるため創業社長は引退できなくなってしまいます。株価のために事業を大きくしなければならない。しかし、一定以上の事業規模では力が発揮できない。すると株価が上がらないので引退できない。この悪循環が多くのスタートアップで起きています。
M&Aという、上場以外の選択肢を起業家に用意し、起業家が次々と新しい事業に取り組める環境を創ることもイノベーションの多産には必要だと考えています。」
3つの事業で「イノベーション・エコシステム」を実現する
日本でイノベーションを多産させるには様々な課題があり、それらは複雑に絡み合っている。それを理解しているからこそ、ソーシング・ブラザーズは「CVCコンサルティング」「Value UPコンサルティング」「M&Aコンサルティング」の3つのサービスをシームレスに提供することで、イノベーションが多産される「イノベーション・エコシステム」の実現を目指しているのだという。
これらの事業について小澤に詳しく聞いた。
「CVCコンサルティング事業のクライアントは主に大企業です。彼らがスタートアップと一緒に事業やパートナーシップを組む活動、つまりコーポレートベンチャリングの全工程を一気通貫でサポートしています。まずはクライアントが持っている技術などのアセットの棚卸しを行い、今後どの分野に対して張っていくべきなのか、投資するべきなのか、その戦略を策定します。次に、戦略に合ったスタートアップを私達が開拓し、商談の機会を作ります。そして提携の座組み、デューデリジェンス、投資実行、アフターフォロー、それらをすべて支援しています。」
CVCで最も難易度が高いフェーズは、スタートアップと大企業という異質な両者の利害を一致させ、提携を走らせることであると小澤は続ける。
「大企業のメリットを追求しすぎてしまうと、スタートアップの成長を阻害してしまいます。逆にスタートアップ側に寄りすぎてしまっても、大企業は何も得られなくなってしまいます。お互いにメリットを追求した上で着地させるというのが最も難易度が高いところでもあり、私達が間に入る一番の価値でもあります。」
ソーシング・ブラザーズのミッションはスタートアップ支援ではなく、あくまでイノベーションの多産だという。
さらに、ソーシング・ブラザーズがこのような提携を実現できる一番の理由は、スタートアップと大企業の両方を理解していることだと渡邊は続ける。
「そもそも大企業とスタートアップでは文化や時間の流れ方が大きく違います。例えば、大企業は電話やメールを主に使いますが、スタートアップはメッセンジャーやSlackなどでスピーディーにコミュニケーションをとります。データ共有のスピードもクラウドを使うか使わないかで全く変わってきます。その結果、簡単にすれ違いがおきて話が噛み合わなくなります。だからこそ、我々が間に入って通訳をしたり、工場や現場に一緒に足を運んで話し合ったりすることでお互いの理解を促していくことが大切です。そう考えているからこそ、我々は単なるマッチングプラットフォームではなくハンズオンで介在し、マッチングした後の協創を実現する存在であることにこだわっています。」
二人の話を聞いていると、スタートアップと大企業が手を組むためにはギャップを埋めることが大切な一方で、そのギャップがあるからこそイノベーションが生まれるのだと気付かされる。
続いて、バリューアップ事業について小澤が話を始める。
「ヒト、モノ、カネ、情報の中で、やはりヒトが一番重要です。まず、私達がCVCコンサルティングを始めたきっかけは、社会実装したいことがあるのに資金がないから取り組めない、勝負できないスタートアップに対して資金を提供するためです。そして資金調達の後に彼らが直面する課題がヒト、つまり採用です。事業を伸ばすには優秀な人材が必要ですが、日本に法人が約300万社とある中で、知名度がないスタートアップは採用に非常に苦労します。
私達はスタートアップが伸びるために必要な役割を定義し、その役割を担える人材を探してくる。ここについてもただ紹介するだけでなく、私達自身がそのスタートアップの魅力を求職者に伝えて意向を高めるところまで行います。」
では、どのようにスタートアップの魅力を求職者に伝えているのか。小澤が続ける。
「弊社には『 興味ないは知らないだけだ』 という文化があります。求職者の『その会社には興味ありません。』という言葉は断りではなく、『知らないから教えてくれ』という意味だとする文化です。そこで、まずは弊社のエージェント自身が徹底的に勉強をします。起業家の方と直接ディスカッションをする機会も設けます。そうするとエージェントの当事者意識が圧倒的に強くなります。また、CVCやM&Aの部門と連携することで、そのスタートアップの株主構成や抱えている課題など普通のエージェントでは知り得ない情報まで持つことができます。その結果、求職者の方に深く魅力を伝え、信頼を勝ち取る得ることができています。」
続けてM&Aコンサルティング事業について渡邊が熱く話し出す。
「M&Aコンサルティング事業ではスタートアップに特化したM&A支援をワンストップで提供しています。さきほど小澤からあったように、スタートアップにM&Aというイグジットの選択肢を提供することが狙いです。
私と小澤が前職で携わっていたような、大企業による中小企業のM&Aは活発ですが、スタートアップに対してのM&Aは非常に少ないのが現状です。スタートアップは革新的な技術やアイデアで、新たなビジネスを追い求め、外部から資金調達を繰り返し赤字を掘りながらでも成長を優先し、研究や投資を行っていきます。中小企業のM&Aでは、比較的内部留保もたくさんあり、黒字であるケースがほとんどなので、買手側の立場からすると、投資目線でも回収の目途も立ちやすく、自社事業の周辺分野であることが多いので買収後のイメージがつきやすいのではないかと思います。
スタートアップM&Aでは、多額ののれんやそれに伴う減損リスクを抱えること、バリュエーションが合意に至らない等の理由を中心に買収の対象になりづらいわけです。
これはCVC支援事業で、数多くの上場会社経営陣と対話を重ねた際に感じたことでもありますが、日本の大企業は自前主義が多く、自社の成長戦略の中にオープンイノベーションやスタートアップとの連携の活用を上手く組み込めていない企業が少なくない印象です。
スタートアップのM&Aを増やしていくには、大企業のこの考え方を変えていかなければならないと感じています。
具体的には、スタートアップのM&AをR&Dの一つの手段、つまり長期的な投資と捉え直す必要があります。
大企業が自社でR&Dを行うのにも人材や投資が必要ですし、時間もかかります。スタートアップをM&Aすることで、そういった課題を一気に解決できる可能性が大いにあります。チャレンジングな人材や文化を自社に取り入れることもできます。
スタートアップにとっても、大企業の傘下に入ることで事業を安定的に成長でき、既存株主に対するイグジットも担保できるため、両者Win-Winになれる手段です。起業家自身にとっても上場よりもイグジット後の縛りが弱く、次のチャレンジが目指せる絶好の機会となります。
弊社では、より一層スタートアップM&Aが日本に多産されるべく、M&Aコンサルティング事業部のみならず、CVC支援事業部も起点として、大企業のイノベーション活動を応援しています。いきなりスタートアップM&Aを実行するにはハードルが高いという企業も多く存在しているため、最終的には弊社CVC支援クライアントが出資したスタートアップを、数年後にM&Aコンサルティング事業部がM&A支援することでグループインするという理想の形を描いており、それによってより多くの件数を生み出しイノベーションに貢献していきたいと考えています。」
ソーシング・ブラザーズはこれら3つの事業をシームレスに提供するため、各事業が持っている情報をすべて社内で共有し、事業部が素早く連携する体制を整えているという。では、どのように「イノベーション・エコシステム」は実現しているのか。
「これはまだ進行中のプロジェクトですので詳しくはお話できませんが、2年ほど前に採用支援をさせていただいたスタートアップから、今の事業を売却して、新しい事業に投資をしたいという連絡がありました。採用支援のところで信頼していただいた結果、今回のお声がけにつながったのだと思います。『人』で事業拡大を支援し、その事業のM&Aの支援にまでつながった事例です。
また、CVCコンサルティングとValue UPコンサルティングのエコシステムが上手く機能した事例もあります。弊社クライアントCVCがスタートアップへの投資が実行されれば、その資金を使って採用を強化し、事業を拡大します。弊社では事前にラウンドクロージングや出資・資本提携の目途が立った段階で、起業家やスタートアップと水面下で採用戦略を構築し、並行して採用支援コンサルティングも行っています。それによって、クロージング後に、急激な大量採用や母集団形成のスタートダッシュを切ることができます。CVCで資本と事業の問題を解決しつつ、その後に起きる『ヒト』の問題に対して事前に手を打つことで、スタートアップの成長を最大限支援できた事例です。」
事業と資金を提供する「CVCコンサルティング」、人材を供給する「Value UPコンサルティング」、そしてイグジットを提供する「M&Aコンサルティング」。このようにスタートアップと全方位的に接点を持つことで、あらゆる情報がソーシング・ブラザーズに集まり蓄積されていく。約4,000社と直接対話して得たコネクションと情報がソーシング・ブラザースしか持ちえない唯一無二の強みだ。これこそが「イノベーション・エコシステム」の要であり、イノベーションを多産する重要な鍵なのだと渡邊は話す。
就職よりも起業が当たり前の社会に
最後に、ソーシング・ブラザーズが目指す未来はどのようなものなのか、小澤に質問した。
「起業をするなら一度ソーシング・ブラザーズに話を聞きに行こうとなると良いですね。例えば、就職するときにはマイナビやリクルートが想起されると思いますが、起業を考えたときにはソーシング・ブラザーズがまず想起される、そんな立ち位置になりたいと思います。もう一つ、起業というシーン以外でも、あれもこれも全部ソーシング・ブラザーズが手掛けている、となれたら嬉しいです。そのためには、研究シーズも拾っていけるような幅広い支援を行っていきたいと考えています。」
そして小澤に続き、渡邊が想いを熱く語る。
「今はあくまでイノベーションを支援する立場ですが、将来的には我々自身がスタートアップをM&Aをすることで様々な技術を持つ事業会社になっていきたいとも思っています。つまり、イノベーションのプラットフォーマーでもあり、イノベーションを起こす当事者でもあるというイノベーションカンパニーを目指していきたいと強く思っています。
そうして日本でイノベーションが多産され、就職と同じくらい、むしろ就職よりも起業が当たり前になるような社会を作れたら本当に良いなと思います。」
5年前、2人きりで創業したソーシング・ブラザーズはすでに50人規模にまで成長した。2人に共感し、「何かを成し遂げたい」という想いを持ったメンバーが今も集まり続けている。「日本のアップデート」に向けた彼らの挑戦にこれからも注目していきたい。