【後編】人材開発に必要なコミュニケーションスキルとは。評価制度や業務設計のポイントを解説
前編では、人材開発の本来の目的が「事業成長・業績の向上を目指すこと」にあり、育成に充てるリソース配分を意識しなければならないことを解説しました。
また、事業成長という大きな視野で捉えつつも、人材に向き合う際にはとりとめのない小さなコミュニケーションを大切にし、相手への期待感を伝えることも大切です。
人材開発を成功させるためには、コミュニケーションが鍵を握っているといっても過言ではありません。
そこで後編となる本記事では、人材開発に必要なコミュニケーションスキルをさらに深掘りして解説します。
評価制度・業務設定のポイントも解説しますので、今後人材開発に携わりたいと考えている方は、ぜひ前編と合わせて参考にしてください。
>>【前編】人材開発とは。主体性を育てる具体的な手法や陥りやすい失敗を紹介
人材開発で重要なコミュニケーションスキル
人間の成長パターンの一つに「真似る」があります。
仕事の取り組み方・考え方・自己改善の手法は、言葉による指導や研修ではなく、見本を示して何を真似すべきかを考えられるように促す形が効果的です。
見本を真似させることで、その行為を徐々に再現できるようになります。
人材開発では「見本を見せるか、経験をさせるか」という考え方が重要であり、これをうまく遂行するためにも円滑なコミュニケーションが肝要です。
ここでは、「真似る」を意識した実践的なコミュニケーションの取り方を解説します。
よい見本を見せる
見本を見せて真似させる場合、見せるタイミングが肝心です。
バッティング練習を例に、見本を見せるベストなタイミングを紹介します。
野球のバッティングを一度も見たことがない状態で、バッティングに挑戦する初心者は、正しい方法がわかっていないため全く成長しない。 この場合、最初に育成担当が正しいバッティングフォームを見せてから、本人にそれを模倣するよう伝え、経験を積ませるのが効果的である。 |
見本を見せるか・経験を積ませるかを決定する分岐点は「本人が模倣する対象を理解しているかどうか」です。
曖昧であっても何をすれば上達できるかが見えている場合には、「どう行動すれば上達すると思うか」「今何をするべきか」といった考えさせる質問を問いかけるのが望ましいです。
一方、対象を知らない初心者の場合は、最初に見本を見せることで正しい経験が積めるように誘導します。
また、しばらく経験を積ませてから再度見本を見せることも重要です。
経験を積んだ後に再度見本を見せることで解像度・理解度が高まり、初回で気づかなかった部分まで注目できるようになります。
人材開発・育成の観点では、見本を見せるのが1割、経験を積ませるのが9割を意識して、本人の主体性を重視した指導をするのが効果的です。
自ら経験を積んでもらう
本人が十分な経験を積める環境を整備することも、人材開発における重要なポイントです。
例えば、商談でのコミュニケーションは練習・体験がものをいうので、ロールプレイングや商談の経験を積むことが重要です。
しかし、戦略構築のような業務では、育成担当が質問を投げかけることが求められます。
質問・聞く際の注意点は、本人が答えられる内容を質問することです。
答えられない質問はアウトプットを自分の言葉で行う経験につながらないため、本人が少し答えやすい内容で質問をするのが望ましいです。
以下、事例を交えて質問するときのポイントを紹介します。
事例①:商談の振り返りで、提案内容に問題があると感じた場合 「今回の提案内容を振り返ってみて、何がうまくいったと思うか」と「今回の商談で何がうまくいかなかったと思うか」という質問は、後者のほうが答えやすさや曖昧さが大きい。 本人の能力やフェーズに合わせて学びを得られるように、本人が答えられる質問をすることが大切である。 |
事例②:育成対象者が能動的に仕事をして自分の目標を見つけるために、モチベーションの源泉を探る場合 モチベーションの源泉を考える際に、「将来どうなりたいのか」と質問してしまうと「正直よくわからない」という返答が返ってくる可能性が高く、非効率である。 「なぜこの会社に入ったのか」「なぜこの仕事をしようと思ったのか」などの質問であれば答えやすいため、モチベーションの源泉ややりがいを見つけるための第一歩となり得る。 |
このように効率のよい人材開発をする上では、育成対象者が主体的に考えて返答できる質問を投げかけることが重要です。
本人が自分の失敗を認識して振り返る
人材開発の現場では、育成対象者がこちらの質問に対して見当違いの返答をするシーンが往々にしてあります。
その際には、「①どのような結論に着地してほしいのかを明確にイメージすること」「②イメージに近づく質問をすること」の2点が重要です。
見当違いの返答を避けるためのコミュニケーション実践例を紹介します。
「商談が失注してしまったこと」への反省において、「競争力を確保すべきだった」という結論につなげたい場 ↓ 「今回の商談では何がよくなかったと思うか」と抽象的な質問をしてしまうと、さまざまなパターンの回答が出てくる可能性がある。 そこで「なぜ相手が我々を選んでくれなかったと思いますか」のような質問をすると、相手の会社を意識して反省点を検討する方向へ促せる。 |
上記のように、抽象的かつ範囲の広い質問ではなく、項目ごとに焦点を当てた質問をすると、育成対象者が具体的な回答を考えやすくなります。
なお、学びを促す目的で質問を行う際に最も注意すべきなのが、質問が思いつかず、最終的に育成担当が回答してしまうことです。
回答を聞いた育成対象者は学び自体を得られるものの、自己改善していく能力が身につきません。
本人が自分の失敗を認識して振り返る機会を作るためにも、育成担当が自ら回答しないようにしてください。
人材開発で意識したいコミュニケーションスタイル
人材開発では、採用できるコミュニケーションスタイルが数多くあります。
ここからは育成を行う側を「育成担当」、育成をされる側を「新入社員」と表現し、コミュニケーションスタイルを解説します。
育成担当が自身のスタイルを意識することが重要
コミュニケーションスタイルは、育成担当と新入社員双方の特徴を反映することが肝要です。
適切なコミュニケーションスタイルを考える際には、育成担当の特徴を70%・新入社員の特徴を30%反映するようにしてください。
育成時のコミュニケーションスタイルは、あくまでも育成担当が主導です。
新入社員の特性を一部考慮しつつ、育成担当自身が得意なコミュニケーションスタイルを採用するのが最も効果的です。
特性を理解するアセスメントツール
人材開発を行う上では、育成担当と新入社員の両方の特性を理解して、適切なコミュニケーションスタイルを取り入れる必要があります。
ここでは、特性を理解する上で役立つアセスメントツールを紹介します。
ストレングスファインダー
特性の理解に役立つアセスメントツールの一つ目が「ストレングスファインダー」です。
「才能に目覚めよう」というキャッチフレーズで日本でも発売されている書籍であり、34の項目から自分の強みの上位5つを見つけられます。
診断結果を活用すれば、自分の強みと相手の強みを理解した上で、効果的なコミュニケーションを検討可能です。
例えば、結果として「共感性が高い」と出た場合、相手の気持ちを理解してコミュニケーションを取ることが示唆されます。
さらに、このストレングスファインダーのよい点は、自身の強みの上位2つもしくは3つに焦点を当てて、自分の育成スタイルを検討できる点です。
オーダーメイドで育成スタイルを考案できるため、一人ひとりに合った人材開発を行えるのは大きな魅力といえます。
ストレングスファインダーを用いた育成スタイルの考え方
例として、ストレングスファインダーにて目標指向・慎重さ・分析思考の特性が入っている方の長所と短所を紹介します。
ストレングスファインダー | 長所 | 短所 |
目的志向 | ・明確な目標を設定し優先順位を付けられる ・目標に対して真っ直ぐ進める | ・没頭しすぎて周りを見られなくなる ・遅れに対して苛立ってしまうときがある |
慎重さ | ・常にリスクがないかを考え、適切に判断できる ・成功するために入念な準備ができる | ・用心深いのでとっさの判断が鈍くなる ・内向的で心を開くのに時間がかかる |
分析施行 | ・感情には流されず事実に基づいて行動する ・データや数字を分析することが得意 | ・わかるまで相手に詰め寄ってしまう ・思考力が高いのでこだわってしまう |
上記のような長所・短所を理解すれば、本人がどのような人で、どのようなコミュニケーションを取るのがよいのかを考える際の参考になります。
DiSC
人材開発に役立つアセスメントツールとして「DiSC」があります。
DiSCとは、4つの行動特性の頭文字であり、その概要は以下の通りです。
- D(Dominance):主導的な性質
- i(influence):人間関係における影響力
- S(Steadiness):安定を求める性質
- C(Compliance):慎重さや規範を重視する性質
DiSCのよい点は、行動性質のパターンが上記の4つであるため、シンプルでわかりやすい点です。
お互いの特徴をシンプルに理解しやすく、コミュニケーション方法の調整を容易にできます。
人材開発の評価制度
人材開発の本来の目的は「人材の成長を通じて事業成長・業績の向上につなげること」です。
そのため育成担当は、育成に利用できるリソースを会社全体のパフォーマンスを高める人材に投入しつつ、目的に紐づいた評価制度の設計も求められます。
適切な評価制度を設計するにあたって、知っておきたいポイントを2点解説します。
- 会社のビジョンを表現している評価制度にする
- 評価制度のインセンティブで動く傾向が強くなる
会社のビジョンを表現している評価制度にする
評価制度は、以下のような企業のビジョンを反映しているものにすべきです。
- 結果主義
- 顧客第一主義
- 株主至上主義 など
例えば、上記のうち結果主義の文化を持つ企業であれば、当然評価制度もある程度インセンティブが大きい形にするべきといえます。
また、顧客第一主義の企業なら「顧客に寄り添った仕事ができているか」を評価制度に組み込むことが大切です。
評価制度は、会社として築いていきたい組織文化・ビジョンに合わせて決めていくのが望ましいです。
評価制度のインセンティブで動く傾向が強くなる
前提として、人はコミュニケーションよりも評価制度やインセンティブによって動くことを知っておく必要があります。
特に一定以上の組織規模(100名以上)になると、よりインセンティブによって動く傾向が強まります。
そのため、あらかじめ会社として望む社員の活動が、インセンティブや評価に結びつくような制度設計を施した評価制度を考案しておくことが必要です。
この評価制度が不十分だと、社員が会社の望む部分と異なる点にモチベーションを感じて動いてしまうことがあるため、注意しなければなりません。
人材開発の業務設計・育成システム
実際に人材開発を進めていくと、各人材がスキル習得にかかる時間やつまずく分野がより明確になるため、これに合わせて育成システムや業務設計を見直す必要が出てきます。
例えば、営業活動でクロージングのプロセスが難しい状況にある場合は、クロージング手前までを別の担当者がやって負荷を減らすのも選択肢の一つです。
クロージングのみを経験や実力のあるセールスに任せることで、業務設計の見直しを図れます。
また「新入社員にどの業務を担当してもらうか・将来どのような役割を担ってほしいのか」といった教育方針を考えることも大切です。
教育方針が固まれば、OJT・研修・育成のオーナーシップを決定し、効果的な育成システムの構築につなげます。
業務設計・育成システムは、スタートアップや急速に組織規模が拡大している大企業であれば、適宜最適な形を模索することが求められます。
安定した大企業であっても、2〜3年に一度は業務設計・育成システムの見直しを行うことが望ましいです。
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前後編にわたり、人材開発について解説しました。
人材開発の本来の目的は、成長を通じて事業成長・業績の向上を目指すことにあり、リソース配分やコミュニケーションが大切な要素です。
また、ストレングスファインダー・DiSCなどのアセスメントツールも活用して、最適なコミュニケーションを模索することも効果的です。
そして、評価制度・育成システムを不備のないように構築し、状況に応じて変更・改善していく必要があります。
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