【ベイカレント・コンサルティング 則武氏インタビュー】戦略から実行まで。理想とするコンサルタントの姿を目指して(後編)
奥井:
経営研究機関ベイカレント・インスティテュートが発足したと伺いました。その中でDX領域を牽引していくチームがデジタル・イノベーション・ラボであると理解していますが、ラボの目的や活動についてお伺いできますか。
則武様:
デジタル・イノベーション・ラボの役割は、DXに関する研究とそこで得た知見の体系化・発信、および提案・デリバリー(※受注したプロジェクトを進めていくこと)支援です。組織横断的な機能として、営業・提案サイド、コンサルティングサイドの両方に知見を還流しています。
それに加えて、DXに関する外部との連携、つまりアライアンスの窓であり要としての役割も担っています。これらについてもう少し詳しくお話します。
まず、我々の研究コンセプトは、日本の大企業がDXを推し進めていく上で、何が必要で、具体的にどうやると良いのかを探求し、それをクライアントとともに試しながら更に磨き込んでいく、というものです。
ラボというと、海外事例の研究や最先端の技術を追うというイメージがあるかもしれませんが、我々のクライアントは日本で活動するリーディングカンパニーです。海外事例や最先端技術はもちろん押さえますが、最もフォーカスしているのは、日本の大企業がDXを進めていくために本当に必要なものは何か、ということ。これは、他のファームとは異なるところかなと思っています。
社内へのDX知見の還流という点においては、社内外への発信はもちろんのこと、新規性や難易度が高いプロジェクトを、アドバイザーとしてバックアップしています。バックアップする中で、研究のための気づきも得られます。このようにDXに関する気づきがぐるぐると回り、スパイラルアップしていっています。
そして、ベイカレントのDXに関する知見の幅をより広げるという意味で、力を入れているのがアライアンスの窓や要としての役割です。
例えば、シリコンバレーにはベイカレントのメンバーがいます。そのメンバーと連携しながら、研究やアドバイザリーの質をさらに高めています。また、世界中のシードステージのスタートアップを中心に投資しているベンチャーキャピタルと連携をして、世界中の動向に網を張り、実際にAIベンチャーなどと協業しています。
奥井:
ベイカレントではDXへのステップとして、「デジタルパッチ」「デジタルインテグレーション」「デジタルトランスフォーメーション」の3つを提唱されていますが、それぞれどのようなものなのでしょうか。個人的な疑問ではありますが、経済産業省のDXレポート2で定義されている「デジタイゼーション」「デジタライゼーション」「デジタルトランスフォーメーション」との考え方の違いもお伺いできれば幸いです。
則武様:
まず、DXレポートは、どちらかと言うと「How」についてまとめられていると受け止めており、それを主眼に3つのステップが組まれていると理解しています。
一方で、我々が提唱するDXの3ステップは、デジタルによって会社そのものを変えるということに主眼をおいたものです。つまりビジネスモデルという「What」への提言です。
DXにおける最初の段階の「デジタルパッチ」というのは、既存のビジネスモデルの一部にデジタルを適用する段階です。一部分にあてるので「パッチ」です。例えば、ある業務においてRPAやデジタルマーケティングツールを導入するというようなものがこれに当たります。
次の段階の「デジタルインテグレーション」では、既存のビジネスモデルの急所にデジタルを適用する段階です。ビジネスモデル自体は変えないが、デジタルによってビジネスモデルを高度化するというイメージです。例えば、海外の事例ではありますが、ウォルマートは例えばOMOの強化など、小売ビジネスの急所にデジタルを統合しコロナ禍においても大きく成長しています。
最終的な「デジタルトランスフォーメーション」は、デジタルによってビジネスモデル自体を変えてしまうものです。例えば、まだ途上ではありますが、ダイキンは今までのように空調機というハコを売り切るのではなく、デジタルを活用したサブスクリプションモデル化を進めています。
奥井:
DXは各企業によってそのゴールや姿が全く異なるのではないかと思います。そうすると、フレームワークに当てはめた支援は今までより難しくなっていくのではと推察しますが、DXという文脈で今後コンサルティングファームが求める人材はどのように変わっていきますか。
則武様:
一言でいうと「変革できる人材」です。「DX」の「X(トランスフォーメーション)」の方ですね。
過去は「D(デジタル)」の時代でした。事業会社ですと外部からデジタルに詳しいCDOを呼ぶ、コンサルティングファームでいうと「〇〇デジタル」などの発足などが典型例です。その時代は、デジタルの知見がある人が注目されていましたが、それでは結局、DXは上手く進みませんでした。
クライアントでもDXを上手く進めているところには、デジタルの専門家ではないが社内に広く顔が効き、彼らを巻き込み、既存事業を変えていくことができるような人をCDOに据えている企業が多いです。 これは、コンサルでも同じです。まず、デジタルの部分は当たり前に求められるようになってきています。そして、それを持った上でクライアントの会社の隅々まで変えていけるような推進力や変革力を持った人が求められるようになるのだと思います。
奥井:
デジタルは前提ということですが、則武さんが考えられているデジタルの範囲を伺えますか。また、SIerの方がその意味でのデジタル知見や、先程おっしゃっていた推進力や変革力を身につけられるのか、また、そのためにはどうしたら良いのかをお伺いできますか。
則武様:
私の考えているデジタルは、分かりやすいところで言うとAI、IoT、XRなどの先端技術を指しますが、それらは今までのITを基盤としています。すなわち、昔からある情報技術の知見や経験も依然として非常に重要だということです。
そして、それらのデジタル知見や、推進力や変革力をSIerの方が身につけていくことはできますし、DXを進める人材になれます。なにより私自身がそうです。
もちろん、やらなくてはいけないことや、変えないといけないことはあります。まず、足りないデジタル知見を補うことが必要です。これについてはSIerの方は、ある程度勘所がありますので、他の方よりもショートカットして身につけられると思います。
次に推進力や変革力は、プロジェクトでの経験を積み重ねていくことで身に付くスキルです。ただ、本当の意味での推進力や変革力を身に付けるには、トップ層への提言に留まらず、自らも汗水をたらして現場を動かしていく経験を積み重ねることが重要です。
奥井:
推進力や変革力を身につけるというのがやはり難しいと感じる方が多いと思います。これを心がけるとブレイクスルーしやすいというようなポイントは何かありますか。
則武様:
そういった意味では、やはり視座を上げたり変えたりすることが重要ですし、そのためには、自分より視座が高い人ととことん議論をする必要があります。議論するうえでは、ベースとなるビジネスの知識が当然必要とされます。
知識の身につけ方は色々と方法がありますが、例えば、日経ビジネスなどのビジネス誌を1つ決めて、それに目を通すことを習慣にしたり、話題になっている本は読むようにしたりするなど、自分の知識を増やすための投資を惜しまないようにするのが、第一歩だと思います。
また、やらされ仕事で知識を身につけるのではなく、楽しんで貪欲に蓄えていけるかどうかも大切だと思います。
奥井:
今はDXの領域には居ないものの今後DXに携わっていきたいという方にとって、ベイカレントはどのような環境だと則武さんは捉えていますか。
則武様:
ベイカレントは会社としてリスクをとって、コンサルタントがいままで関わったことのない領域に挑戦するチャンスを与えてくれる会社です。
例えば、レガシー系の案件の経験がある人は、同じようにレガシー系の案件を任せればほぼ確実にパフォームします。しかし、本当にその人のことを考えるのであれば、パフォームするか不確実だとしても、今までと違う領域へ挑戦する環境を与えるべきです。そういったリスクを会社が取れるかどうかが、本人の成長を促したり、限界を破ったりすることに繋がります。
ベイカレントではワンプールという仕組みをとっているからこそ、リスクを取っていろいろな環境を与えることができます。
また先程も話したとおり、人材のポテンシャルを引き出すのが上手です。新しい環境やミッションを与えていくということを繰り返して、人材の成長を促すことができます。
奥井:
アサインは価値観のマッチを一番に考えています。そういった点で則武様から見て、ベイカレントにマッチする方はどのようなものでしょうか。
則武様:
行動規範としても重要視しているのですが、成果にこだわることができ、主体性を持って能動的に取り組むことができる方だと考えています。また、既成概念に囚われず、新しいことを発想して実行していくことにワクワクできる方は向いていると思います。加えて、クライアントにも同僚に対しても、誠実かつ実直であることも重要だと思っています。
奥井:
ありがとうございます。これまでDXという文脈でお話を伺いましたが、則武さん自身はどのような方と一緒に働きたいと思っていらっしゃいますか。
則武様:
やはり「DX」の「D(デジタル)」よりも「X(トランスフォーメーション)」に興味を持っている人です。我々はブームの間だけビジネスをするわけではありません。先程もお伝えしたように、「D」は標準装備になりますし、そのデジタルを用いた「X」は今後もずっと続きます。例えば、デジタルを用いたサステイナビリティに向けた会社の変革などのテーマも生まれてきています。
このようにトランスフォーメーションに興味を持ち、会社を変えていきたいと強く思っている方と私は一緒に働きたいと思っています。
奥井:
最後に、則武さんが考えるベイカレントの今後の展望についてお聞かせください。
則武様:
まず、これからの世の中においては、コンサルティングファームが業界別機能別に分かれていると、その中のコンサルタントが一流、超一流になるのは難しいと考えています。
すでに業界という概念が曖昧になってきています。新規事業で全く別の業界に進出していくことも珍しくありません。業界と業界が入り乱れる中で、「業界知見とは何なのだろうか」という世界になってきています。そうなると、コンサルタントにとっては、色々な業界を支援してきた経験が活きます。
また、本当の意味で会社を変革していこうとしたときに、例えば、「ITについては詳しいですが、マーケティングについては分かりません」という状態では、会社全体を変えていくことはできません。
ですので、これからのコンサルタントは、業界も分野も横断した知識や経験をもったうえで、専門性を磨いていくことが理想だと思っています。とても難しいことではありますが、だからこそ市場価値を大いに高めることができます。
そういったコンサルタントが集結するファームとなるために、会社規模が更に拡大しても、業界や分野を横断して経験を積めるワンプール制を大切に経営していきたいと思っています。
「お客さんがロジックだけでは決められないときに判断を委ねてもらえる」というのが、私が目指すコンサルタントの究極的な価値です。ロジックの面では両案とも甲乙つけがたく、クライアントが迷って決断できないときに、それまでの信頼関係から意見を求められる。そして、ロジックやファクトを超えた”自分の想い”が採用される。そのときが最もコンサル冥利につきる瞬間であり、クライアントとの信頼が積み上がっていった証でもあると思います。
個人的には、是非皆さんと一緒に、このようなコンサルタントを目指し、そんなコンサルタントが集まるファームを創り上げていければ嬉しい限りです。