証券業界研究~ブローカー業務からのビジネスモデル変革~

証券会社の稼ぎ方は、株を売買させて手数料をもらう商売から、資産を預かり続ける商売へ移りました。この記事では、その転換を数字で確かめながら、各社の違いと仕事の中身、キャリアの実像まで整理します。
証券会社のビジネスモデル
証券会社の仕事は、お金を出したい人と、お金を必要とする企業をつなぐことです。この仲介から、大きく4つの収入が生まれます。
| 収益源 | 中身 |
|---|---|
| 委託手数料 | 顧客が株を売買するたびに受け取る手数料。長く業界の柱でした |
| 代行手数料 | 投資信託の販売や残高に連動して入る収入。預かっている限り毎年発生します |
| 企業から受け取る報酬 | 株式や社債の発行、M&Aの助言に対する対価。規模が大きくなります |
- 自己勘定の取引による損益
ここで押さえたいのが、委託手数料と代行手数料の性質の違いです。売買手数料は顧客が動いたときだけ入るのに対し、代行手数料は預かっている限り入り続けます。
呼び方は前者が「フロー」、後者が「ストック」です。相場が悪いと売買は止まりますが、預かり資産は残るため、この差がいま業界を作り替えています。
では、なぜ各社はストックへ舵を切ったのでしょうか。
手数料ゼロが変えた収益
きっかけは2023年の秋でした。SBI証券と楽天証券が相次いで、国内株式の売買手数料を無料にしたのです。
主力商品の価格をゼロにするこの決断が、業界全体に収益源の作り替えを迫りました。
押さえておきたい変化は3つです。
| 変化 | 中身 |
|---|---|
| 対面大手はストックへ移行 | 野村ホールディングスのウェルス・マネジメント部門は、預かり資産から入る収入で経費をどれだけ賄えるかを示す比率(ストック収入費用カバー率)を、2014年3月期の22%から2026年6月末の76%まで引き上げました。将来は全額を賄う水準が目標です |
| 預かり資産の規模を競う | 大和証券グループは2025年9月末に預かり資産100兆円を突破し、2026年度に120兆円へ積み増す計画を掲げています |
| ネット証券は別の収入で埋める | 無料化した2社とも、信用取引の金利、投資信託の代行手数料、銀行との連携へ収益を組み替え、いずれも過去最高益を更新しました |
追い風になったのが新NISAです。全証券会社のNISA口座は2023年12月末の1,428万口座から2,030万口座へ増えました(日本証券業協会・2025年12月末)。
ただし、口座数の伸びをそのまま顧客の増加と読むのは危険です。口座は複数の会社で開けるため、実態は稼働している口座や残高で見る必要があります。
この転換は、働く人の評価軸まで変えました。売買を勧めた回数ではなく、預かった資産をどれだけ増やし、どれだけ長く任せてもらえたかが問われます。
短期で数字を作る力より、顧客の10年先を設計できるかどうか。志望動機を作るときは、この変化を自分の言葉にできるかが分かれ目になります。
主要プレイヤーの比較
利益額は会計基準や決算期が会社ごとに違い、横並びで比べられません。ここでは稼ぎ方の違いで整理します。
| 社名/類型 | 稼ぎ方の特徴 |
|---|---|
| 野村ホールディングス 独立系・総合 | 個人向けと投資銀行、海外まで持つ最大手 |
| 大和証券グループ 独立系・総合 | 預かり資産100兆円超。資産管理型へ転換中 |
| SMBC日興証券 銀行系 | 三井住友グループ。銀行と連携した提案 |
| みずほ証券 銀行系 | 銀行・信託と一体の体制を掲げる |
| SBI証券 ネット系 | 口座数で最大手。手数料無料の先陣を切った |
| 楽天証券 ネット系 | 楽天経済圏との連携が武器。口座数2位 |
(各社の直近通期決算資料と公式サイト。純利益は野村が3,621億円で最大、大和証券グループが1,752億円、ネット系は数百億円規模です。ただし野村は米国会計基準、楽天証券は12月決算のため、順位表としては読めません)
読み取りたいのは、対面とネットで顧客の集め方が逆であることです。口座数ではネット系が1,000万を超え、対面大手は数百万にとどまります。
つまり両者は同じ土俵にいません。対面は資産の大きい層へ深く、ネットは幅広い層へ薄く広く。どちらの戦い方に自分が向くかが、会社選びの分かれ目です。
もう1つ、銀行系かどうかも見ておきたい軸です。銀行系は顧客の同意を前提にグループ内で連携し、法人取引や相続の相談まで含めた提案の機会を持ちます。
その代わり、グループの方針に沿った動き方が求められます。独立系の機動力を取るかグループの総合力を取るかという違いも、入社後の働き方を左右する分かれ目です。
各社の立ち位置を押さえたうえで、入社後の職種に進みます。
主な職種と仕事内容
証券会社の仕事は、大きく4つに分かれます。
リテール営業
個人や中小企業のオーナーに対し、資産の運用や承継を提案する仕事です。会社やコースによりますが、若手のうちは新規開拓を任され、年次が上がると既存の顧客を引き継ぐ流れが多く見られます。
いま変わりつつあるのがこの職種です。売買を勧めて手数料を得る形から、預かり資産を増やして長く付き合う形へ、評価の軸が移りました。
ホールセール
金融機関や上場企業といったプロの投資家が相手です。担当する顧客数は少ない代わりに、1件あたりの金額と関係者の数が大きくなります。
投資銀行部門
企業の資金調達、M&A、株式上場を支援します。案件は年単位で動き、一人前になるまで時間がかかる領域です。
リサーチ・トレーディング
アナリストは企業や市場を分析して投資家へ情報を届け、トレーダーは自社の資金で売買を執行します。どちらも専門性で評価される職種です。
4つのうち、新卒の配属先として最も人数が多いのはリテール営業です。まずは個人の顧客と向き合い、そこから専門領域へ進む道が一般的な流れになります。
キャリアパスと働き方
処遇は高い水準にあります。大和証券は総合コースの初任給を大学卒で31万円、楽天証券は総合職を35万円と公表しました(各社採用サイト)。
新卒の入口も会社ごとに違います。野村證券は8つのコースに分けた職種別採用で、みずほ証券はオープン型と専門型を併走させ、SBI証券はグループ一括の総合職採用です。
平均年収を見るときは注意が必要です。野村ホールディングスの有価証券報告書には1,376万円とありますが、これは持株会社177名の数値で、実際に新卒が入る野村證券のものではありません。
事業会社が非上場だと開示義務がなく、社員の実勢は外から見えにくいのが証券業界です。数字を鵜呑みにせず、説明会でモデル年収の考え方を聞くほうが確実です。
各社とも人事制度を作り替えてきました。野村は年齢や在籍年数によらない給与体系へ移り、新卒採用を職種別に一本化しています。中途採用の比率を高める動きも、業界全体で進みました。
社外への出口は職種によって別々です。アナリストやトレーダーは専門性を軸に運用会社へ、投資銀行部門は事業会社の財務や投資ファンドへ進む道があります。
リテール営業で身につくのは、経営者と信頼を築く力と、数字への責任感です。他業界の営業でも評価されやすい経験ですが、どこへ移れるかは本人の実績しだいになります。
向いている人と選考の視点
面接官がこの質問で確かめているのは、銀行と証券の違いを自分で説明できるかどうかです。
ところが志望理由は、「経済を動かす仕事がしたい」から先に進みません。その言葉は銀行にも商社にも当てはまるため、「なぜ銀行ではなく証券なのですか」と返された時点で答えに詰まります。
この問いに答えるには、両者の立ち位置の違いを押さえておく必要があります。銀行は預金を集めて貸し出す形でお金を動かし、証券は投資家と企業を直接つなぐ形で動かす存在です。
前者は元本を守る前提が強く、後者は値動きを引き受けてもらう前提に立ちます。顧客に何を約束する仕事なのかが、根本から違うということです。
収益構造の転換まで踏まえて語れる人は多くありません。「売買手数料ではなく預かり資産で稼ぐ形に変わったからこそ、顧客と長く向き合いたい」。ここまで話せると、面接官の受け止め方が変わります。
どの職種が向くかは、次のように分かれます。
| 職種 | 向いている人 |
|---|---|
| リテール営業 | 年上の経営者と信頼を築ける人。数字への責任から逃げない人 |
| ホールセール | 市場の知識を短期間で吸収し、専門家と対等に話せる人 |
| 投資銀行部門 | 長い案件を粘り強く進め、細部の精度を保てる人 |
| リサーチ・トレーディング | 分析が好きで、判断の速さと冷静さを併せ持つ人 |
どの職種でも、扱うのは他人の資産です。相場が下がった局面で顧客に向き合えるかどうかが、長く続く人との分かれ目になります。
証券業界研究の始め方
証券は株の売買で稼ぐ会社だと思われがちですが、面接で聞かれるのは、その会社がフローとストックのどちらで稼いでいるかです。
気になる1社の決算説明資料を開き、預かり資産の残高とその推移に目を通してみてください。
見たことを、その日のうちに友人へ説明してみましょう。言葉に詰まる箇所が、まだ自分のものになっていない部分です。
対面大手とネット証券で迷っているなら、ASSIGNのエージェントに相談してみると決めやすくなります。
ASSIGN
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