AIによる翻訳技術の進展と活用事例

近年、人工知能・AIの発展があらゆる技術に革新を起こしています。その一つが翻訳です。AIによる自動翻訳技術は著しく進歩を遂げており、今ではまるで　人間が訳したような自然な文章に訳すことが可能になりました。本記事では、AIによる翻訳技術の進展と、AI翻訳の活用事例について見ていきます。

AIによる翻訳技術の著しい進歩

AI翻訳の先駆けとなったのは、1980年代から急速に普及した統計翻訳（規則翻訳）です。統計翻訳とは、豊富なテキストデータに基づいて言語を解析し、翻訳するシステムです。しかし、統計翻訳は明らかに機械が翻訳したような不自然な文章になってしまうのが課題であり、有用性を示すには至りませんでした。

そこから約40年。現在流通しているAI技術による自動翻訳は、従来の自動翻訳と比べ翻訳精度や効率が格段に高まっています。NTTコミュニケーションズ株式会社が2019年にリリースしたAI翻訳プラットフォームサービス「COTOHA(R) Translator」は、なんとTOEIC960点を超える精度となったそうです。

このようなAI翻訳進展の背景としては、人間の脳のような翻訳の仕組み「NMT（Neural Machine Translation）」が大きく関係しています。NMTとは、文章全体を読み込み意味を把握してから翻訳する技術です。これにより、人間が実際に日常生活で使用するような言葉と違和感のない自然な文を作成できるようになったのです。また、AIのアルゴリズムにより文章の前後関係を認識できるようになったことで、さらに的確な文章へと訳せるようになりました。

医療や金融などの専門分野・用語にも対応

AIによる翻訳技術の大きな課題として、専門分野の用語・文章に対応できない点がありました。従来の翻訳では、特定の専門用語に関連するデータを全て入力する必要があり、登録されていない単語が出てきた際にはそのまま不自然な文章に翻訳してしまっていました。

しかし、最新の国内AI翻訳はこれらの課題を解消しています。AIが専門用語を学習することで随時専門用語をインプットできるようになり、医療や製薬、金融といった専門分野の自動翻訳の精度が飛躍的に上がったのです。例えば製薬分野では、治験実施計画書などの専門領域の文書の自動翻訳に成功したそうです。その結果、人件費の削減や生産性の向上に大きく貢献しました。

AIによる翻訳技術の活用事例

AIによる翻訳技術は、具体的にどのような場で活用されているのか。ここでは業界別でAI翻訳技術の活用事例を見ていきます。

医療・医薬業界

医療関係でよく活用されるのは、医薬関連の文書の翻訳です。医薬品・医療機器・診断薬等の承認申請書類をAIが翻訳したことで、新薬や新機器の申請から承認にかかる期間の削減につながったそうです。ほかにも、薬理・薬効試験報告書、取扱説明書、操作マニュアルなどの翻訳にも大いに役立ち、作業効率の向上に貢献しています。

金融業界

金融業界では、IRや証券・投信、経理・税務、証券などさまざまな分野の文書翻訳に活用されています。海外の投資家向けに作成する証券アナリストレポートや為替、先物投資レポートの翻訳や、財務諸表や会計基準・監査、監査報告書などの経理資料の翻訳に役立っています。

商社

外国語が堪能な社員が多く在籍する商社でも、AI翻訳の活用が進められています。大手総合商社の三菱商事では「外国語を運用できるといっても母語レベルに至らないのであれば、ツールの活用で効率を上げる」という考えのもと翻訳ツールを活用。各種文書の翻訳をAIツールに任せることで、生産性の向上につながりました。

メーカー

食品や自動車、化学製品のメーカーなどでは、生産製造分野で特に役立っています。品質管理マニュアル、製造マニュアル、安定性試験報告書などを瞬時に正しく翻訳することで、生産を担う海外拠点とのやりとり時間の短縮・効率化へとつなげています。

本記事で紹介した通り、AI翻訳は今やあらゆる分野で活用されている。今後さらに翻訳の性能・精度が増し、活用される場が増えていくでしょう。