外部環境の変化と海外駐在員の役割

新型コロナウイルス感染症の流行によって、海外駐在員を取り巻く外部環境が大きく変化しました。コロナ禍・そしてコロナ後の海外駐在員の在り方や役割にはどのような影響を及ぼすのでしょうか。

本記事では、海外事業を進める企業の体制、これからの海外駐在員の役割や求められるスキルについて迫っていきます。

コロナ禍によって見直しが進む海外駐在員の役割

新型コロナウイルス感染症が世界的に流行し始めた2020年以降、海外駐在員は一時帰国を余儀なく強いられたケースをよく耳にします。

各国の入国・出国制限が強化され、現地との往来が困難になったことにより、海外拠点のコミュニケーションやマネジメントをリモートで行う企業が増加しました。

その一方で、2021年12月にEY Japanが実施した今後の赴任計画に関する調査によると、経営者・管理職など295人のうち46%が「コロナによる影響はない」、28%が「赴任者を増やす方向に動くと思う」と回答しています。

このデータから、コロナによって一時的には海外駐在員の減少につながったものの、海外展開を進める企業ではコロナ後でも海外駐在員の需要があることが読み取れます。

実際に、アジアへの生産拠点の拡大やASEAN諸国に向けた事業計画の再開、新たな販路開拓を進める日本企業が増えているのです。

こういった現状からも、今後の海外事業を中心となって進める海外駐在員のニーズが続くことは間違いありません。

ただし、コロナ流行前と違ってリモートで実施できる分野が増えたことにより、海外駐在員の役割や求められることに変化があるでしょう。海外駐在員の必要性や海外マネジメント体制、赴任形態の見直しが進められているのは明らかです。

コロナ後の体制・海外駐在員の役割

2022年4月現在、多くの国で入国規制が緩和されつつある。コロナ後の海外事業の体制や海外駐在員の役割を詳しく見ていきます。

駐在員の一部業務は現地担当へ＝海外拠点の自立化

駐在員が担ってきた役割のうち、現地で完結できる部分については今後ローカルへの移管が進んでいくでしょう。

コロナ前の企業の課題として、多くの業務ノウハウや最新情報が海外拠点に移管されておらず、日本の本社に偏っているケースがありました。

また、業務の意思決定が全て日本本社で行われ、海外拠点に権限が譲渡されていない場合も少なくありません。これにより駐在員と国内本社のみで意思決定を完結してしまい、現地のローカル人材と海外駐在員の間でのコミュニケーションが不足してしまうのです。

しかし、コロナ流行によって一時的に海外拠点への駐在員がいない状態となりました。これにより、いかに海外拠点がローカル人材のみで業務を完結できるかという課題が浮き彫りになったのです。

現地に海外駐在員がいなくても業務を遂行できるオペレーション力はもちろん、海外拠点を強化するための取り組みを実施することが、これからのビジネスを大きく左右します。今後はいかに優秀なローカル人材を育てられるか、という観点も重要になるでしょう。

本社からのリモート管理

コロナ流行の影響によって国内外問わずリモート化が進むなかで、管理業務の一部は本社からのリモート管理への切り替えが進むと予測されます。

実際のところ、多くの日本人がリモートワークを強いられたことを機に「予想よりもリモートでできる」という感覚を持った人もいるのではないでしょうか。今後はさらにリモートワークのよさ・効率性に焦点が当たり、今後も継続される可能性は高くなっています。

こういったなかで注目されているのが、日本に居住しながらも海外拠点の仕事へ従事する「バーチャルアサインメント」です。リモートワークを応急処置的な対応に止まらせることなく、ニューノーマルな海外勤務の在り方になると予測されます。

バーチャルアサインメントの最大のメリットは、コスト削減です。海外駐在の手当、住宅費、教育費などを含め、本人の異動に関わる費用が一切かかりません。

また、さまざまな要因で海外駐在ができない優秀な人材が、海外拠点の事業に関われるようになる点もメリットでしょう。社員にとっても移動・世帯移動をせずに、グローバルなキャリアを歩むことができます。

こういったリモート管理によって、今後はさらに海外拠点に向けた「リモートマネジメント力」が求められるようになるでしょう。オンラインコミュニケーションは、コロナが収まったとしても海外事業にとって主軸となるツールとなることは間違いありません。

これからの海外駐在員に求められるスキルとは

本社からリモート管理によって国内にいながらも海外事業へ関与できることが増えるなか、海外駐在員には「現地にいるからこそ」の部分が問われます。

現在、海外駐在員に最も必要だとされているのは、現地で優秀な人材を見極めて採用し、仕事や権限を委譲するまでに育成できるスキルです。

今後は、現地拠点の自立化に向け、ローカル人材を教育・育成することが求められます。現地に派遣される海外駐在員は、国内からでは困難な採用対応や、意思決定やマネジメントができる現地人材を育てるという育成面を担うでしょう。

また、変化の激しい海外の環境下でも、その先にあるビジョンや将来性を踏まえて臨機応変に対応できる姿勢や、ローカル人材を奮い立たせるリーダーシップも求められます。

今回説明した通り、コロナが沈静化した後であっても日本企業の海外駐在員のニーズが減ることはないと考えられます。しかし、今後海外駐在員を目指すのであれば、個人としてもコロナ禍を踏まえ海外駐在員の意義を考えるべきです。